第9章「数ヶ月後の授業」

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第9章「数ヶ月後の授業」

その1「教務課」    いつだったか、生徒同士がつかみ合いのけんかになった。  ぼくは関係ないが、これでは授業を続けられない。  2人を職員室に連れていった。  教務課のアルジェリア人担当者は、まず彼らにこういう。 「いいか、お前らよく聞け。これから話すことは男同士の話だ。女子どもの話じゃない。男として自分の言葉と行動に自覚と責任をもて。、ちゃんと行動しろ」  その後、また別の生徒2人を連れていった。  教務課のアルジェリア人は、やはり彼らにこういう。 「いいか、お前らよく聞け。これから話すことは男同士の話だ。女子どもの話じゃない。男として自分の言葉と行動に自覚と責任をもて。そして、ちゃんと行動しろ」  何回連れていっても同じセリフだ。  おかしくて、しかたなかった。一度彼に聞いてみた。 「毎回どうして同じことばかりいうんだい?」  いつもそういうには、理由があった。 「生徒たちは、まだ子どもと変わらない」 「ぼくからは年齢的にも体格的にも十分大人に見える。少しは大人扱いしてもいいのでは?」 と提案すると、 「かといって生徒たちを、一人前の大人扱いするのか? 無理だろう。彼らにその期待に応えるほどの自覚が、まだないからだ」 と、胸を張ってこう力説した。 けれどその担当者自身、まだ若い。  背が高いが細くて、風が吹けば飛んでいきそう。貫禄がまったくない。生徒のうちで年齢が上の、まあまあましな人間をそのポストに就かせたといった感じだ。  幼稚園の年長組が、年少組に対して偉そうにしているに等しい。  ぼくは心の中でつぶやいた。 「あんたも、まだ変わらんよ」 その2「憎まれ役登場」    ドラマには、憎まれ役がよく登場する。  学園物なら教頭先生、刑事物なら本庁公安課、時代劇なら悪代官…。  この物語はセミドキュメントだが、ドラマに負けない憎まれ役が存在する。我々教師を常に監視し、最悪の場合帰国させるのが生きがいのような人間。  それが、さっきの若い担当者だった。  そして彼の上司は、初授業で現れたアルジェリア人の検査官だ。  最初その若い担当者は、ぼくにかなり好意的だった。それには理由があった。唯一の日本人だからだ。  あるとき、彼がこう話しかけてきた。
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