第6章「ふたたびアルジェリアへ」

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そんなこんなで、ぼくは再度アルジェリアへ戻ることとなった。  オラン飛行場は、相変わらず大勢の人々と独特の匂いで満ち満ちていた。  なんとか税関検査を終え、到着ロビーへ向かう。 その1「ムッシュ・フォール」    そこで一人のフランス人が、ぼくを出迎えてくれた。  初対面だが、目印となる会社の封筒を両手で胸元にかざしてくれていたので、すぐにわかった。  背広にネクタイ、柔和な顔立ち。丸い銀縁眼鏡をかけている。30代半ばといったところだろうか。一見銀行の支店長かと思える風貌だ。  彼の名はムッシュ・フォール。  現場を預かる責任者だ。  実は今までフランス人との初対面では、あまりいい目にあっていない。はっきりいって、ぞんざいな扱いだった。 とにかく年齢より若く見られた。こっちはとっくに社会人になっていたが、相手は大人として認めてくれない。 「おい、君!」 などは、まだいいほうだ。ひどいときは 「そこのお坊ちゃん」 などといわれた。  もっともこちらの服装にも問題はあった。  いつもバックパッカーのような姿をしている。まだ学生気分が抜けてなかった。今考えると、トンデモ社員だ。 そこへいくと、ムッシュ・フォールの対応は完璧だ。  ちゃんと紳士的に、対等なエンジニアとして迎えてくれた。  もちろんこのときも、ぼくの服装は超ラフ。  カラフルなリュックサックに半袖シャツ。ネクタイは一応首に巻いているものの、下はGパンだ。  海外勤務をするフランス人は、本国の人間とまた違うのかなとも思った。  日本人でも海外赴任経験のある人と、そうでない人では性格がかなり違う。人当たりが柔らかく、ギスギスした所がない。人柄が丸い。  今のぼくを見てもらえれば、読者のみなさんにも十分理解してもらえると思う。  誰だ? これを読みながら首をかしげたり、クスクス笑っているのは! その2「工場までのドライブ」    さてトランクに荷物を入れると、さっそく彼の車はぼくを乗せて走り出した。  初夏とはいえ、昼間はもう暑い。ぼくは窓を開けた。  空港沿いにはオレンジやオリーブ畑が並んでいる。その香りが、車内にスーッと入ってきた。風を浴びると、からっとした空気に懐かしさを覚えた。
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