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「ムッシュ、今度いつ日本に帰るんだ? 帰るときにはいってくれ。ちょっと買ってきてもらいたいものがあるんだ」
といって、購入リストを渡された。
A4用紙いっぱいに細かい文字が書かれている。
「どこがちょっとだ、こんなに買えというのか。まずスーツケースを5つは買う必要があるぞ」
と内心腹が立った。
しばらくは帰国する予定もなかったし、無視していた。
またある時、こう頼んできた。
「ムッシュ、あんたのラジカセ売ってくれないか。まあ安くしてくれよ。ここの給料なんて雀の涙ほど少ないんだから」
そのとき彼が発した言葉、
「セ・ラ・ミゼール(非常に少ない)」
が非常に印象的だった。彼の貧乏人根性が染み付いた、ぴったりの表現だ。
ぼくはついマネして、からかってしまった。
「セ・ラ・ミゼール、セ・ラ・ミゼール、セ・ラ・ミゼール!」
彼は、このことを相当根にもったらしい。
その3「突然の襲撃」
ある日のこと。
きょうの授業は、生徒も素直に聞いている。
時限半ばで一段落ついたし、5分ほど休憩を取ることにした。ぼくは窓際でのんびり外の景色を眺めていた。
校庭で誰かが急いで駆け出して、校舎の中に入ったのが見えた。
いきなり戸口がガラッと開いた。
例の担当者がその上司を連れてきた。
「そうか、さっき校舎に入っていったのは、担当者だ。窓際に立っていたのを見て、告げ口にいったんだ」
とぼくが気づいたときは、もう遅かった。
「教師自ら授業をさぼっていると聞いたが…」
という上司。いかつい顔つき。背が低く、がっしりした体つきの持ち主だ。
「これはもう強制帰国ですよね!」
と手もみしながら、上司にお伺いを立てる担当者。上司より背がだいぶ高いので、腰をかがめて頭の高さを合わせている。
横から見ると、アルファベットのDみたい。
まさに、ディーこぼこコンビだ。
ぼくだけでなく、生徒たちも憤慨した。
「ムッシュは授業中に休憩時間を与えてくれる、いい先生だ、何ひとつ悪くないのに…」
と同情してくれたらしい。彼らは、次々とフォローしてくれた。
「日本では適度に休憩を取ることが、学力アップにつながるそうなんです」
「禅の思想です。心を一度無にすることが、次の飛躍につながるんです」
「だからあの国は戦争に負けて一度無になって、そこからあんなに発展したんですよ」
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