第6章「ふたたびアルジェリアへ」

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その4「宿舎」  次に宿舎に案内された。  トレーニングセンターから車で10分ほど離れている。  宿舎と聞いて、ぼくは日本でよく見かける社員寮のようなものかと考えていた。  だが、予想は大きくはずれた。  広大な敷地に、数えきれないほどの住宅群が並んでいた。 アメリカ駐留軍でも住んでいそうだ。実際、住民はここをキャンプと呼んでいるらしい。  これらはアメリカの建設会社ベクテルが建てたもの。  講師用だけでなく、工場勤務者すべてのための住居だ。単身者用と家族用に分けてある。それぞれ3000人分と1000所帯を越えるそうだ。  当然ぼくは単身者用に住むことにになった。といっても、かなり広めの3DK。日本なら余裕で4人家族が住める広さだ。  やがてムッシュ・ガリッグは車で帰り、部屋には自分だけとなった。一人で住むには広過ぎる上に、家財道具はひとつもない。夕闇が迫り、ますます孤独に感じる。ぼくは大きく深呼吸をした。  数日後には人生初の、教師という大仕事が待ち構えている。  まだ何の準備もしていない。今から始めても間に合うかどうかわからない。気になり出すと、緊張で吐きそうだ。  こんなとき、九州男児としては開き直るしかない。 「男ちゅうもんは、くよくよしてもしかたなか。今夜は早く寝て、明日また考えればよか」
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