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蔵の中には貴重な骨とう品や資料などがあり、千寺鷲の父親の物置と化していた。
父親は歴史学科の客員教授をしており、その時の教え子だった久野という男が講師となり、貴重な資料を借りにたまに家に来る。
「鷲庵先生、こんにちは」
鷲庵というのは鷲のペンネームであり、江戸時代をモチーフとした小説を書いている。
「久野さん、いらしゃい。おや、もしかして頼んでいた子かな?」
久野の隣に立つ青年に目を向ける。
「はい。彼は榊黒斗君です」
ウェブで無料配信する為の短編を依頼され、デビュー当時からお世話になっている所なのでその話を受けたのだが、自分が主に書いている雑誌ではなくボーイズラブ雑誌の企画なのだと聞いた時には、何故、自分に話がきたのだろうと思ってしまった。
戸惑う鷲に担当が、女性ファンから捕物帳シリーズの主人公の友人達の話を読んでみたいという要望が多く寄せられているのだと告げ、実はその二人は互いに想いを寄せているという事を、あとがきで少しだけふれたことがあり、それでそうなったらしい。
まさかその二人を主人公にして話を書くことになるとは思わず。だが、折角頂いた話だ。書上げてみたい。
だが、プロットを書き始めてすぐにつまずいた。
捕物帳シリーズは、自分の作品の中でも書くのが楽しみで、キャラにも思い入れがある。
本編では結ばれることはないだろう、二人を幸せにしてやりたいとも思うのだが、どうしてもキーを打つ手が止まったままだ。
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