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心は、頭を傾けて呟いた。
「変わった名前ですね。」
「数字の四と書いて、肉食の鳥、鷲! 強そうな名前だろう? 四羽も鷲がいるんだぞ~!」
父さんが俺の肩を揺らす。
「そうっスね!」
そう言って、心がクスクス笑う。
絶対、バカにされてる……!
名前は小さい頃からのコンプレックスだったというのに、名付け親の父さんは他人にいつもそれを自慢する。
こんな、いかにも健康そうな奴の前で、貧相な身体の奴の名前を強そうだろうと自慢するか普通。
「じゃあ、そろそろ行くね。」
心の母親が手を振りながら玄関を出ようとすると、俺以外の三人が別れを告げる。
そんな中、俺は一人ため息を吐き、自室へと足どり重く戻るのだった。
「絶対に関わるもんか!」
部屋に勢いよく鍵をかける。
夏の暑さがまだ残る頃のことだった。
あ……足音がする。
心だ。
父さんのでも母さんのでもない大きな足音が、響いてくる。きっと、家に荷物を運び込んでいるのだろう。
すると、その足音がピタリと止まった。
「おーい。四鷲ー、あ、け、て」
お気楽さ溢れる声が俺の鼓膜を揺らす。
「……は!? は!? なんでここに来るの!? は!?」
「四鷲ー開けてよー。」「…………」
ここは眠ったと見せかけてガン無視しよう。
「よっ、わっ、しっ!」
呼び方を変えても出るものか。
すると、ドアの外から「チッ」という舌打ちが聞こえ、思わずドアの方を見つめる。
ヤバイ、怒らせたか……?
「あ、あの……。」
「テメェふざけんのも名前と顔くらいにしろよ。早く開けろ。」
「ヒッ……」
顔が引き攣る。
俺は、椅子の上に丸くなっていた身体を無理矢理動かし、そっと、部屋の鍵を開けた。
絶対に関わりたくなかったのに、有無を言わさないような口ぶりに心底怯えている自分がいる。
名前はともかく顔を侮辱されたのがショックだった。
鍵を開けた瞬間、足で蹴られたドアは音を立てて壁にぶつかった。
怒られる! そう思ったが、心の反応は全く別のものだった。
「わぁ、ステキなお部屋だね!」
一階に聞こえるくらいの大声で心は叫んだ。
突然の態度の急変に、戸惑いを隠せない。
さっきのは、幻覚……? 見間違えたか? もしどちらでもなかったとしたら、一体何がしたいんだ?
「そう、かな……。」
「うん! 俺この部屋にする!」
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