第11章「帰らされた講師たち」

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 この点は、あの独身のモーリスと同じだ。たいくつな話を、さも一大事のように語りかける。その大半が自慢話だった。  テレーズは歌うように話す。  アフリカ人特有のアクセントで、ベラベラととどまるところがない。肌はかなり黒光りしている。30歳前後の女盛り。話していると目がくるくる動く。そのたびに白目が際立って、表情が豊かだ。  そのころ彼らは越したばかりで、ホテルに住んでいた。 キャンプには家族用の住宅がある。  しかし彼らは本国並みの住宅を探して、市中に住みたいらしい。 「ホテルの食事には、もうあきた」 とモーリスがいうと 「レストランだと食事が高くつくし」 とテレーズ。ぼくは彼らと仲良くなり、何度も自宅に誘い、食事をともにした。  間もなくモーリス夫妻は職場から10キロメートルほど離れたアルズーという住宅街に移り住んだ。  あるとき、モーリスがこういった。 「今までのお返しに、フーフーをごちそうしたい」 「フーフー?」 「ザイールの料理だよ」  見たことも聞いたこともない食べ物だ。ぼくはその名前から 「フーフー」 と冷ましながら食べる、熱々のモツ煮込み料理を想像した。  仕事を終えると、モーリスの買い物に付き合い、市場に向かった。  肉屋では、牛・豚・ニワトリの他、アフリカでなければ手に入らないようなめずらしい動物の肉が並べられている。しかしモーリスは、肉には目もくれない。その代わり店先に吊るされた、あるかたまりに手を伸ばした。    それは何とも形容しがたい臓物だった。  そんな物を一抱えも買い込んだとき、ぼくはいやな予感がした。 「これはいかん! ぼくの食べられそうな料理じゃない。せめて自分のために何か食べ物を用意しなければ。しかしうまい口実が見つからない…」  いい考えが浮かばないまま、モーリスの家に着いた。  そこにはすでに、ガリッグ夫妻が食卓に座っていた。  他に、当時ぼくと同居していた同僚のギニア人ヤイがいる。  そして彼が連れてきた女の子ふたりもいた。黒い肌の美容師ファティマと、スペイン語の通訳ジェミラだ。  そしてついに注目の料理フーフーが姿を現した。  ひとり一皿ずつ、テーブルの上に置かれた。  食材も形容しがたかったが、皿に盛られた料理もやはり形容しがたい。  形も色も気持ち悪い。
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