第11章「帰らされた講師たち」

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 ところが、彼らは出されたフーフーを実においしそうに食べていた。ヤイや女の子たちは黒人だから、食べ慣れているのかもしれない。しかしガリッグ夫妻まで、うまそうに食べているのには驚いた。 「一体どういう食文化の連中なんだ?」 不思議な思いで、改めてみんなを見回した。  その香り、いやクサさときたらとてもモツ煮込みどころじゃない…。モツ煮込みを想像したぼくが、間違っていました。  日本全国のモツ煮込み屋さん、申し訳ありません!  ニオイはもちろん、味もひどい。  とても食べ物とはいいがたい。ぼくの舌は、まったく受け付けない。なのに、おなかは 「グーグー」 と音を鳴らす。自分の意志と関係なく。  しかたなくサラダとデザートだけで、何とか飢えをしのいだ。  結局その日のフーフーは、ほとんどのどを通らなかった。空腹でありながら、一口も食べられないのは初めての経験だ。ぼくの胃袋は、あまりのひもじさに 「ヒーヒー」 だった。 その11「とびきりのごちそう」  そんなことはあったものの、昼飯にはよくモーリス夫妻の家にいった。  テレーズが普通に作る料理は、けっこうおいしかった。  主婦の手抜き料理というと非難の対象だけど、彼女の場合は別。そのくらいが、ぼくにはちょうどいいのだ。  ぼくは毎回食べる前にこう祈っていた。 「もう腕によりをかけた、特別なメニューを出さないで」  ある日テレーズのいとこのザイール人の若い男が、ベルギーから訪ねてきた。  そのとき初めてザイールは、昔ベルギーの植民地だったことを知った。  彼は、バカンスを利用し遊びにきたという。両手いっぱいのおみやげを持参してきた。 「特別な料理をもってきた。ぜひ食べてくれ」  ぼくはフーフーのことを思い出し、少しイヤな予感がした。しかし自分にいい聞かせた。 「彼はベルギーからきたんだ。あの国はベルギーワッフル、ベルギーチョコが有名だ。どれも日本人にも人気の食べ物じゃないか。そういったおいしい料理に違いない」  そんな願いもムダに終わった。  出て来た料理に驚いた。 「指が入っているじゃないか! しかも何本も煮込んである。これは一体何だ?」 「これはチンパンジーの指だよ。ザイールではとびきりのごちそうだ。さあどんどん食べてくれ」  腹を空かしているのに、どうしても食欲が出ない。
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