第11章「帰らされた講師たち」

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指だけにお手上げだった。その日は昼食を抜いた。  彼は1週間ほど滞在した。  翌日また別の料理を作った。 「きょうの料理は気にいってもらえるはずだ。さあ、どんどん遠慮しないで食べてくれ」  皿の中では、何かがシチューのように煮込まれている。 よく見ると、それは無数の毛虫だった。  おまけに、そのニオイといったら、もはや形容のしようがない。  ぼくは吐き気をこらえながら、テレーズにオムレツを作ってくれるように頼んだ。それがぼくの昼飯となった。  そうした材料は彼がわざわざベルギーの、いきつけの店でしこたま仕入れてきたという。ぼくはあ然とした。 「日本に中華街があるように、ベルギーにはザイール街でもあるのだろうか。日本人は中華料理を好むが、ベルギー人はこれが好きなんだろうか?」  自分の家に戻ると、少し冷静になった。 「もし日本人が梅干しをもってきたら、外国人はどんな対応をするだろう?」  そういえば第二次世界大戦後、米兵の捕りょは裁判でこう発言したという。 「日本人からひどい目にあった。木の根っこを食べさせられた」  調べてみると、それはきんぴらごぼうだった。  チンパンジーの指も無数の毛虫も、ザイールでは梅干しやきんぴらごぼうのようなものかもしれない。 「彼らの材料が、ぼくにとって少々ショッキングな物だっただけだ」 と思い直し、その日はすぐに寝た。
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