第12章「同居者・色男講師ヤイ」

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貴重な外貨をもっている。しかも30歳前後の独身者とくれば、モテないはずがない。ここでいう外貨とは、西側諸国の通貨のこと。ドル、フラン、マルク…。当時の円はまだ弱かった。  アルジェリアの通貨は、持ち出し禁止。ドルやフランとの交換にも制限がある。休暇でヨーロッパにいくには、まさにのどから手が出るほどほしい。 とくに女性たちはフランスで買い物をしたいからね。  ともかく外国人なら金持ちだし、オーケーというわけだ。たとえハゲ茶びんオヤジでも、ある程度はモテただろう。  さて、ジェミラはおしゃれな娘だ。  たいして美人ではないが、スタイルはいい。バストはやや小ぶりだが、腰がくびれている。  ボンッきゅっボンではなく、プクッきゅっボン。  肌の色は日本人より少し濃い。髪は生まれつき茶色がかっているが、栗毛というほどではない。  3日に1度はヤイに連れられてやってくる。  ぼくら3人はゲームやトークで夜を過ごす。そして彼女は泊まっていった。もちろんヤイと同じベッドで。 その6「ヤイVS大家」    やがて、それは大家に知れた。 「女を連れ込むな」 と苦情がきた。  日本なら昔よくある光景だった。長屋や下宿には、おせっかいで口うるさい大家がいた。  しかしヨーロッパ、とくにフランス人の感覚では、大家であっても他人のプライバシーに口を出すのはがまんならないものらしい。  一方アルジェリア人からすると、異教徒の外国人に同胞の女は渡せないという気持ちがあるらしい。  毎晩夜8時ごろになると大家の妻である老女が、いつも ぼくらを戸のすき間からのぞいていた。  何のことはない。宿舎と同じく、また監視される事になってしまったわけだ。  ある日大家がわざわざ文句をいいにきた。 「外国人の女なら好きにしていい。しかしアルジェリア人の女はダメだ。隣近所の目がある。どうしてもというなら、改宗してイスラム教徒になれ。そして結婚しろ」  ヤイは当然激怒した。  ぼくも彼と同じく憤慨した。そのころ職場はフランス人が多かったので、自分もフランス人思考の影響を受けていた。  飼いネコが、周りが人間ばかりだと自分も人間だと思い込むようなものかもしれない。  当時のぼくは、他人に感化されやすかった。今はすごくガンコだけど。  結局早々と引っ越しすることになった。
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