第14章「アルジェリアの医師事情」

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第14章「アルジェリアの医師事情」

その1「ムッシュ・ガリッグ倒れる」  ムッシュ・ガリッグが病気になって寝込んだ。  何の病気かはわからない。彼はトレーニングセンター内で、いちばんしっかりした人間だ。普通は自分で医者を呼べばいい。赴任期間が長いんだから、かかりつけの医師くらいいるはずだ。  ところがなぜかヤイに頼んで、アルジェリアの医者を連れてきてもらった。  友人ということだったが、どうせそこらへんで知り合った仲間のひとりだろう。深い付き合いではなさそうだ。ムッシュ・ガリッグもよほど熱が出て、冷静な判断ができなくなっていたとしか考えられない。  医者は一応診察らしきことをして帰った。  その後も何度かムッシュ・ガリッグの家に出入りした。そのたびにムッシュ・ガリッグは、安くはない診察費を払った。  やがて病気は治った。  しかしヤイが、ムッシュ・ガリッグに重要な情報をもってきた。 「あの医者はニセモノらしいんです」 「本当か?」  ふたりはその医者の居場所を捜し出し、問いつめた。 「医師の免状を見せろ」 「あわてるな。ここにちゃんとある」  確かに免状はもっていた。しかしそれはコピーだった。しかも名前の部分は切り貼りされていた。  真実がわかった。  実は看護士の資格もない介護人だった。どこかの病院で働き、医者の口調やしぐさを見慣れていたようだ。  当時アルジェリアにいた外国人は、ほとんどが石油や天然ガスに関係していた。金回りもよかった。だから狙われやすかった。  日本で、振込サギにあうニュースをよく見る。 被害者は、たいがい年配の人だ。そのたびに 「何であんなのに、だまされるんだ?」 と思ってしまう。  しかし白衣を着たニセ医者が診察していたときは、誰も気づかなかった。ヤイはもちろん、あのムッシュ・ガリッグでも見破れなかった。  信じ込まされるというのは、恐ろしい。   その2「立派な紳士」  アルジェリア人がみんな 「外国人は金づる、標的、獲物」 と考えているわけではない。一方では 「外国人はお客様」 という考えかたもある。これは日本に少し似ている。 つまり 「おもてなし」 をしてくれる人が多い。よその国からきた人には、優しく気配りのきいた対応をする。
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