第11章「帰らされた講師たち」

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 また読者の一部から、クスクス笑いが聞こえる……。    さて次は、印象深い講師たちについて1人ずつ紹介していこう。 その3「ムッシュ・カオー」  講師の中に唯一のベトナム人、ムッシュ・カオーがいた。彼はパリに15年以上住んでいた。それほどフランス滞在期間が長いのに、アクセントはベトナム語のままだった。  同僚のフランス人たちはため息まじりにこう嘆いた。 「アヒルが鳴いているようだ」  フランス人でさえ聞き取れない。  ましてぼくには 「クワッ、クワッ、クワッ、クワッ」 としか聞こえない。  ムッシュ・カオーはいつも疲れている。  1日の授業が終わると、かわいそうなほどヘトヘト、グッタリ状態。夕方のしおれた朝顔みたいだった。  みんなはその姿をからかい、こういった。 「ムッシュ・カオーは本当にカオー(※)だ」 (※混沌という意味のフランス語。英語のカオスに当たる。呆然とするほど疲れている意味もある)  結局彼は、ひと月ともたずに帰っていった。 その4「ジャン」  やってくるのは、ただの技師ばかりではない。  エンジニアやドクターという肩書きの者も何人かきた。 「ドクターはわかるけど、エンジニアは?」 なんて思ったアナタ。  確かに日本でエンジニアというと、工学系の大学を出て何年か経験を積んだ人間というイメージ。ちょうどぼくがそうだ。とくに国家試験を受かったわけではない。  しかしフランスでは、エンジニアを専門に養成する学校がある。そこを卒業した者は、一目置かれる。日本でなら医大を出たような扱いだ。医師や弁護士に次ぐステイタスらしい。  ただし、ここへきたエンジニアたちを見る限り、まともなのはムッシュ・ガリッグだけ。  あとはロクなヤツがいなかった。そういえば、母がこんなことをいってた。 「肩書きと映画の予告編は、信用してはいけない」  たとえば、このフランス人のジャンがそうだ。  彫りの深い美男子だから、女性によくモテる。  ぼくなら自国の女性を相手にするだけで十分だが、彼は飽き足らないらしい。世界中を放浪して回っている。 とくにインドがよかったらしい。付き合っているインド人女性の写真を何度も見せられた。インドとアフリカは、地球4分の1周くらい離れている。一体どうやって付き合っているんだろう?
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