第11章「帰らされた講師たち」

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ある日、講師たちがガリッグ宅に呼ばれた。  何かのパーティーだった。誰もが、モーリスはさぞかししゃべるだろうと予想していた。ところが珍しいことに、黙ったまま皿に食べ物を盛っている。 「おいモーリス。今日はおとなしいな」  珍しく、ぼくのほうから話しかけた。 「風邪をひいたんだよ」 と、彼は小さなガラガラ声で答えた。 「へー、そうかい。てっきり毎日しゃべり過ぎて、とうとうのどを枯らしたのかと思ったよ」  一同爆笑。  モーリスはいい返すのも、つらいらしい。参ったという顔で、ぼくに握手を求めてきた。 その7「ベルギー人技師」  ある日、ぼくは教室から職員室に戻り、自分の席に座っていた。  すると後から大柄のベルギー人技師が入ってきた。きのう赴任したばかりの新入りだ。彼はぼくのイスを指さして、こういった。 「そこは俺の席だ」 「いや、ぼくの席だよ」 と答えると 「そうじゃない、そこは俺がいつも座っている!」 といい張り、イスを強引に取り上げた。 「冗談はやめてくれ!」 といってもムダ。彼は本気だった。とにかく力ずくで取られてしまった。自分の居場所が、いや全存在が否定されたような気がした。  このとき、久々に九州男児度が急激アップ1000%!  ぼくの心の阿蘇山はもちろん、雲仙岳、桜島、さらに富士山までもが噴火した!  彼はぼくの倍ぐらいの体格。しかしそんなことは気にならない。猛然とイスを奪還にいった。  この職員室の机の置きかたは、日本と同じだ。2列背中合わせで並べてある。島のような固まりになっている。それが3つ。廊下側から窓際へ並んでいる。  上から見たら、こんな図だ。       廊下側    □□□□□□□□□    □□□□□□□□□    □□□□□□□□□      □□□□□□□□□   ↑→→→→→→→→→↓   ◎□□□□□□□□□↓    ■□□□□□□□□↓     ←←←←←←←←↓              窓側  ぼくの机は、いちばん窓際の島。その島の角に当たる部分に席を確保していた。  ちょうど■に当たる。景色のいい場所だった。  今は、例のベルギー人講師が不法占拠している。  ぼくは体を低く構えて、歩き始めた。
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