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「やっぱクーラー効いてんのなー」
中には入らずに、冷風を顔で味わうように目を細める南雲くんは、ずりぃよなぁ、と上気した頬を突き出していた。
さっきまで和やかだった準備室の空気が、緊張感を持ったものに変わったのを肌で感じる。
向かいの席の先生(確か名前はシバタだったはず)は、この場にいませんというかのように、ひたすらお弁当を食べている。
もう一人他に先生がいたはずなのに、気づいたら準備室の中にはシバタ先生だけだった。
「えぇっと、南雲、くん?」
「名前は覚えたんだ」
「一応」
「でも、思い出せない訳ね?」
「ごめんね」
「はぁ………」
南雲くんはわざとらしいため息を吐きながら左手で首の後ろをポリポリと掻き、
「顔貸して」
そう言うと、準備室の入口に背を向けた。
「はぁ?」
「アッチ行こーぜ、教材室」
「えっ?」
「じゃないと、さっき男子トイレ覗いてたってチクるけど」
「覗いてなんかないっ!」
「声、でかいよ」
そう言われ慌てて口に手をやった。
「あ、あとさ、センセ?あのうまそーなサンドイッチも持ってきてよー」
そう言って、勝手知ったる我が家のように、南雲くんは教材室の扉に手をかけた。
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