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誰もいなかった教材室の篭った生暖かい空気が肌にまとわりつく。
陽の当たるこの教材室は、昔のおじいちゃん家の古臭いニオイに似ている、と思う。
嫌いじゃないニオイだ。
旧型のエアコンのリモコンを操作すると、大きな音と一緒に生温い風が吹き出し、南雲くんの頭のてっぺんの髪が逆向きになびいた。
「へぇ、こんなもんまであるんだー」
何度も来たことがあるようだったのに、戸棚に並んだ昔の教科書や参考書籍を眺めて声を上げる南雲くん。
「知らなかった?」
「うん。1年ん時の担任が英語科でさ、ここの前まではよく来てたけど中には入れてくれなくて」
「あ、そうなんだ……って、え、ここって生徒入れちゃまずいのかな!どうしよ……」
「大丈夫じゃないの?オレだし」
「何それ」
「成績優秀な問題児、らしいよ?」
あぁ、それで授業中も。
さっきの準備室でも。
南雲くんが発言するだけでピリッとした空気に変わるんだ。
腫れ物を扱う、そんな感じ。
「水嶋センセーが来た理由」
「へ?」
「というか前のヤツが病気になった理由、と言う方がいいかな」
教材室の中央に合わせるように配置されている2つの長机のパイプ椅子を引くと、
「たぶんオレのせいじゃね?」
そう言ってドサッと腰かけて、私のお昼が入っているコンビニの袋を漁り出した。
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