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ガヤガヤとざわついた教室内もお決まりの質問が終わるとある程度の静けさに変わった。
「他に質問が無ければ、ちょっとだけ授業っぽいことしようかな」
E→Zの歌詞に使われている分詞構文をいくつか例にして引っ張り出そうとチョークをつまむと、
「はーい、質問でーす」
教室の後ろの南雲くんが気の抜けた声でそう言った。
あ、喋った、と思うのと同時に、ピキっとした空気が教室に漂ったそんな気がした。
「何、でしょう?」
「水嶋センセ?」
「はい?」
「Readingの最初のページだけどさ」
「あ、うんうん!」
ようやくまともな質問が!
どんなことを聞かれるだろうと期待しながらペラと表紙を捲る指が、
「黒板に書き出してくれない?」
止まった。
「書き出す、の?」
「うん」
んー?と思いながら左手にテキストを持つと、
「全部、発音記号で」
そう言って、眩しいくらいの笑顔を見せた。
「発音記号なんて、みんな興味あるんだね…」
コツコツ、と音を立てながら1行目を書き出す。
「特にね、今は必要性がないって思っちゃうけど、……法則があるのね……」
コツコツ、コツコツ。
「ちなみにこの法則はPhonicsって呼ばれてて、体系化されてるの…」
コツコツ、コツコツ。
「Phonicsを知ってしまえば、英語の発音問題なんて怖くないし、法則に則って考えるのが好きって人には……」
コツコツ、トンッ。
「おすすめしたいなって思います。ちょっと黒板のスペースないからここまででいいかな?」
そう言ってくるんと振り返ると、ポカーンと口を開けた生徒が数人。
「こんな感じでいいかな?南雲くん?」
その当の本人、南雲斗弥は何も言わず目を丸くして私を見た後、頬杖をついたまま、プイ…と、窓の外へ視線を向けた。
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