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初日の授業がどうにか終わった。
あれを“授業”と呼んでいいかどうかは別として、だけど。
私は、教壇のテキストやらを急いでまとめ、教室を出ていこうとする南雲くんを追った。
「南雲くんっ」
「何?」
さっき見せたのとは真逆の、睨むような目付きに一瞬たじろいだ。
「あの、」
「急いでるから」
そう言うと、足を止めずスタスタと歩き出してしまった。
私はそれでも、覚えていないことを謝ろうと彼の後を追った。
「どこかで会ったことあるんだよね?」
「あぁ」
「えっとー、どこか教えて欲しいなぁって思って……」
ピタリと止まって振り向いたその顔がさっきと違って幼く見えて、記憶が呼び起こされそうだ……。
けど……でも出てこない。
そうだ!君が言ってくれたらいいんだ。
“○○ぶりです”とか“○○で会ったんです”とかさ!
「本当にごめんなさい。思い出せなくて……」
答えを期待してる私を、今度は悪い顔で見て、
「それはいいんだけどさ、どこまで付いてくるつもり?」
そう言って、何か、を指さした。
辿って見上げたそこには、御手洗の男の子マークが…。
「え、ひぁっ、ご、ごめんなさいっ」
「くくっ。そこにいてもイイけど、変態教師みたくなるからやめといた方がよくない?」
逃げ出す私の背中に、
“ふはっ”
南雲くんの小さな吐息みたいな笑い声がちくんと刺さった。
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