1時間目

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「それにしても水嶋、顔が歪んでるぞ」 「はぁ?」 「あ、違うな。顔が緩んでる、だった」 悪ぃ悪ぃ、と謝る北村先生に周りがアハハとウケている。 「それに、変な顔してんぞ」 余計なお世話です。 「本当に何も……無かった?」 「無いですよ?」 「あ、そ」 「あぁ、ひとつあげるなら」 「お?」 「“久しぶり”と言われました、ある生徒に」 「へぇー。誰?」 「なぐ………」 さっきの、3年2組の男子生徒の名前を出そうとした時、準備室のがたつく引き戸が音を立て、 「あー、いたいた」 その張本人が、 「さっきはどーも、水嶋センセ」 ひょこっと顔を覗かせた。 やれやれ、とか、 はいはい、とか、 半ば呆れた感じの顔になる北村先生。 「おいら戻るねぇ」 「あ、はい。お疲れさまです北村先生」 「おう、またな、あかね」 あ。 久々に聞いた。 北村さんが私を下の名前で呼ぶなんていつぶりだろ。 でも、大抵は、悪いことを企んでる時だから嫌な予感しかない。 今は何を、考えてるんだろう? 北村先生は片手をヒラヒラと挙げて準備室を出て行った。 すれ違いざまに一瞬だけ南雲くんを見て。
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