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俺が近づいていくと、老婆は俺に気づいて、目を丸くした。
「マコト!帰ってきてくれたんだね!」
そう言うと老婆は俺にしがみついた。
「違う、俺はマコトじゃないよ。和也は、いや?マコトさんはどこに行ったんですか?」
俺がそうたずねると、老婆はキョトンとした。
「何言ってるんだい。アンタがマコトだろう。」
そう言うと老婆は俺の手を引いて、自室にあがるように促した。
俺は和也に会えることを期待して、促されるままに部屋に入った。
居間には、仏壇があり、その仏壇には和也の遺影が飾られており、和也はどこにもいない。
「お腹がすいただろう?すぐご飯にするからね。今日はお前が好きな栗ご飯だよ。」
「ねえ、おばあちゃん、和也をどこにやったの?」
俺はもう芝居をする必要はないと思い、単刀直入にたずねた。
「和也?誰だい、それは?それより、マコト、仕事はみつかったのかい?」
「だから、俺はマコトじゃあないって言ってるだろ。」
俺が声を荒げると、仏壇ががたがたと鳴った。
遺影の和也の唇が動いたような気がした。
タ・・・ス・ケ・テ
「何言ってるの、お前はマコトだよ。」
俺の目の前に栗ご飯を置くと、老婆はにっこりとほほ笑んだ。
ご飯の湯気がゆらりと老婆の顔をゆがませた。
いや、俺の視界がゆがんだのか。
意識が朦朧として、自分がどこにいるのか、誰であるのかすらわからなくなってきた。
「ああ、そうだな。俺はマコトだった。」
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