第17章「ヤイとふたりで泥棒?」

1/3
前へ
/33ページ
次へ

第17章「ヤイとふたりで泥棒?」

 ぼくはハッシという村に、ヤイと同居していた。  でも早々に引っ越しすることになった。次の住居を探さなければならない。   その1「新居発見」  やがてヤイは新しい住まいを見つけた。  場所は、ハッシから5キロも離れていない港町アルズー。しかもそこには、フランスから家族を呼ぶという。  ここの大家は人の好い、おおらかな性格だった。現代的感覚をもち、外国人に理解がある。  大家の家族構成は複雑だ。  主人と奥さん、息子ひとりと娘ふたり。それに叔父、めい、おい、いとこ、はとこがいる。11人のビッグファミリーだ。  賃貸契約を交わしたあと、すぐに引っ越しが決まった。  ただしヤイの家族が到着するまで、ぼくもいっしょに住むことになった。 その2「引っ越し」  ぼくらはすばやく転居した。  引っ越しといえば、ふつう週末におこなうもの。だがぼくらは可能とあれば、1日も待ちたくない。  深夜に家財道具をまとめ、音も立てずに出ていった。ハッシの大家のうるさい監視から逃れるためだ。  といっても荷物は、スーツケースと台所用品ぐらい。それでも会社の小さな車に乗せると、2人分の荷物でいっぱいになった。  あとで近くに住んでいた同僚から、こんな話を伝え聞いた。 「近所でうわさになってるぞ。 『真夜中にこっそり荷物を持ち出した。あいつら、まるで泥棒みたいだった』 って。もし同僚だとばれたら、おれも泥棒仲間にされてしまう」    新居のふたりの娘たちは、姉が17歳で妹が13歳。  ひんぱんにぼくらの家にきては、炊事洗濯を献身的にしてくれる。そこは個人主義のフランス人とは違う。  他人の世話を焼く。  外国人への興味なのか、あるいはそうするものだという習慣からか。男ふたりだけで住んでいるなら、世話をするのは当たり前だと思っている。  今回はどうしたことか、ヤイは娘たちに手を出さない。娘たちが若すぎるのか、それとも家族を呼ぶのでトラブルの種をまきたくないのか?   とにかく妙におとなしい。  新居に移ると、ジェミラやファティマも以前ほど訪ねてこなくなった。  大勢の中で暮らすとプライバシーがなくなる。  出入りが自由になってしまう。誰がいつやってきて、いつ帰ったのか、はっきりしなくなる。ハッシでは、大家の家族やヤイの女友だちが勝手に入ってきて、勝手に出ていった。  
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加