第18章「ぼくを変えた人」

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その1「フランスの管理職」  この物語にしばしば登場する、ムッシュ・ガリッグ。  フルネームは、マックス・ガリッグという。  彼は今まで会ったどのフランス人とも、違うタイプだった。世界を股にかけたエンジニアとして。石油と共に生きてきた。  オランダのダッチシェルから始まって、名だたる企業を渡り歩いた。  エッソ、トータル、エクソン…。ある会社ではエンジニアだった。別の会社ではプロジェクトマネージャーとして活躍。石油界のマルチプレイヤーだ。  フランスでは、管理職は最初から管理職になるべく教育される。女王バチを育てるようなもんだ。  職につくと、即戦力としての能力を求められる。  ルーキーの甘えは許されない。しかしそれに答えられるような実力があるから、選ばれたともいえる。 その2「ガリッグとフォール」  このトレーニングセンターでの責任者は、ムッシュ・フォール。  まだ若い。ムッシュ・ガリッグの助けが必要だ。実質的には、彼が最高責任者だろう。  しかし彼はいたって謙虚。あくまで裏方に徹しようとしている。この奥ゆかしさ、ぼくと似ているでしょ……。  ムッシュ・フォールが赴任した当初は、慣れないもんだから、相当混乱していたらしい。かなりめちゃくちゃなカリキュラムを組んだ。人員配置もひどかったらしい。  おかげでムッシュ・ガリッグは、彼のフォローに大忙しだった。  ぼくもその混乱の被害にあった。  同じクラスを2度教えるように組まれていた。当然二度目の授業は、何もやることがない。授業は自習時間にした。  ところがそんなときに限って、運悪く検査官が回ってくる。 「おい、授業はどうした? 強制帰国されたいのか!」 「さぼっているわけじゃないんだ。実はカリキュラムが…」 説明するのに、どれだけ苦労したか。結局ムッシュ・フォールは、最後まで何かと問題を起こした。   彼の滞在の終わりのころ。  ついにムッシュ・ガリッグも、本来上司であるムッシュ・フォールにあいそをつかした。 「ムッシュ・ガリッグ、ポケットコンピューターのプログラムを組んでもらえないか?」 彼は、ムッシュ・フォールから仕事を依頼された。しかし彼は、ぼくを呼んだ。 「代わりに仕事をしてくれないか? ギャラははずむから。ただしムッシュ・フォールに黙っておいてくれ」  
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