第18章「ぼくを変えた人」

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ふたりで口裏を合わせた。もう真面目に手伝いをするのに疲れていたようだ。   その3「ガリッグの家」  とはいえムッシュ・ガリッグが、ムッシュ・フォールと仲が悪かったわけじゃない。  彼らの住むアパートは、すぐ近所だった。ぼくら講師は、通勤路がそのアパートの前になっていた。  帰りに通ると、ガリッグ家の玄関の扉はいつも開放されている。 「いつでも入ってきてくれ」 といわんばかりだった。事実よく声をかけてもらった。立ち寄ると、中に必ずムッシュ・フォールがいる。一杯付き合った。  フランス人は、個人主義者だとよくいわれる。とくに週末は、プライベートな時間に利用する。他人に交わろうとはしない。  でもムッシュ・ガリッグは違った。  ウィークエンドになると、単身赴任の講師を自宅に呼ぶ。食事の世話をしてくれた。ぼくもお世話になった。最初彼はアミエルといっしょに住んでいた。ムッシュ・フォールの面倒も見た。  週末の昼食はいつも4、5人だった。彼の奥さんが、料理の支度をしてくれた。 「なんでここまでしてくれるんだい?」 食事中ぼくは質問したことがある。こう答えが返ってきた。 「海外では精神的な部分が、仕事の善し悪しを左右する。いかに優秀な人間が集まっても、心がバラバラではプロジェクトは失敗してしまう」  彼ならスポーツチームの監督を任せても、国際試合で勝てそうな気がする。   その4「ガリッグの仕事ぶり」  ムッシュ・ガリッグは、昼夜をいとわず週末まで働いた。  ムッシュ・フォールとカリキュラムを組む。講師の生活の面倒を見る。講師に授業のやりかたを指導する。  それだけではない。  講師が足りないときは、全クラスの全教科を教えることができた。  小学校の国語算数理科社会なら、全教科教えることもできるだろう。しかしここは専門分野ばかりだ。教科書を読んで説明するだけでない。機械の前で実習も指導する。  ちなみにクラスは運転員、機械工、電気工、計装工、分析員などがある。  基礎科目では数学、幾何、物理、化学。  専門科目では機械、製図、電気、化学工学。  さらに加えて、この工場におけるプロセス(工程)や運転、各機器の仕組みや役割などもある。  テキストは、1冊4、50ページのものが100冊ほど。段ボール1箱分くらいになる。
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