後輩ワンコの躾は終わらない模様です。

3/44
前へ
/154ページ
次へ
「……とりあえず、俺の部屋に入ろうか。ここ外だし、そんな顔見られたくないでしょ」 見せたくないのは俺の方で、酷い顔をしてるのも俺の方だ。 それに気付いているのかいないのか、黎子さんは、涙で途切れがちな呼吸を震わせて、ちょっとだけ笑った。 「……それ、さっき私が言った」 「……そうだね」 その叱られた瞬間を思い出して、腹の中がドクリと跳ね上がる。 自制しろ自制しろ自制しろ、ここまでずっと我慢してきただろ、あと数分待て、今はとにかく二人きりになるのが先決だ。 腕の力を緩めると、黎子さんがチラッと俺を見上げる。 はにかんだ笑顔の破壊力は抜群で、多分俺の体の中の何かは、ボンボン爆破された。 カラカラの喉と汗ばんだ掌を隠して肩を抱いて歩き出す。 不審がられない程度の速さと強さと言うのは、存外難しい。 黎子さんには、俺が焦ってることくらいお見通しなのかもしれないけど、それでもまだ俺は、あなたを怖がらせたくはないんだ。 嫌がることは、本当はしたくないんだ。 とっくに劣情に押し流されているのかもしれない頭の片隅に、碇を打ち込む。 これだけは、忘れちゃいけないと戒める。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加