14人が本棚に入れています
本棚に追加
カチャリと小さく鳴る音に、彼の唇から切り離される。
店主が黒木さんへと、コーヒーをカウンターに置いた。カップは艶のある白色のろくろ焼き。琥珀色が美味しそうに映える。カップと同じ色のソーサーには、ミルクが載せられていた。
私の隣に置くには違和感を感じるそのカップに、大して気にも止めず、黒木さんとの会話に夢中になっていた。
年は私の4つ年上31歳。
職場はここから電車で40分。
営業マンというだけあり、話上手。
ハンカチを返してもらう約束も、互いの都合の良い日を難なく合わせて、スムーズに決まった。場所はこのお店の前で。予約を取るわけではないので、いつだって来られると思った。
でも黒木さんは今日、予約を取っていたようには見えなかったな。
それを聞こうとしたとき、
「もうこんな時間だ、社に戻るよ。雨も止んでる。
秋津さんと話していると、時間が経つのを忘れてしまう。また会えるのが楽しみだよ。
じゃ、また。」
店主をマスターと呼び、お金を払う。まだ乾いていない上着を手に、ここを去って行った。
黒木さんが口にした白いカップを眺め、なんとも言えぬため息を漏らす。
単純に、もっと一緒にいたいと思った。
最初のコメントを投稿しよう!