14人が本棚に入れています
本棚に追加
土曜日の夕方、私はあのお店へと向かっていた。最寄りの駅で降り、駅前の横断歩道の信号で待つ。休日の横断歩道では、年配の夫婦や小さな子供を連れた家族も、手を繋いで待っていた。
青になって、一斉に歩き出す人混みに怖くなったのかもしれない。子供がお母さんに抱っこをせがんだ。優しそうな眼差しで、お母さんは子供を抱き上げ、おでことおでこを合わせる。とても微笑ましい光景だった。
抱っこをしたお母さんの3mほど後ろを歩けば、後ろ向きの子供と目が合う。私がニコリと笑えば、子供も嬉しそうに足をバタつかせた。
3回目にバタつかせたとき、片方の靴が脱げる。お母さんは気がつかないで前へ行ってしまう。
いけない、靴が!と思い、急いで靴に駆け寄り拾おうとしたとき、ビジネスバッグを持ったスーツの男性が拾い上げた。
手を伸ばした私と目が合う。
なんだか、その人がとても眩しい。
「靴、落とされましたか?」
「いえ、私ではなくあの子が。」
あの子を抱くお母さんとの距離がどんどん離れて行く。子供は彼をじっと見ていた。
「靴、持っていきます。」
その言葉はもう、彼には聞こえていないようで。
最早、私の数メートル先に彼は歩いていた。
最初のコメントを投稿しよう!