第2章 運命

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「秋津様、こちらの席へどうぞ。」 店主は私をカウンター席に案内した。10席あるうちの、向かって左から3番目。 「お飲物は、いかがされますか?」 「ホットコーヒーをお願いします。」 このお店にメニューは見当たらないが、カウンターの後ろに品良く並べられたコーヒーカップとソーサーを見れば、そう注文をしたくなる。色も柄も違うものがたくさん並べられていて、美しい。 しかし、ちょっとまて。そもそもここは、コーヒーを飲む為のお店ではない。そのはずだ。 電話で予約をしたとき、こちらが名乗れば〝〇〇日の19時から予約をお取りしておきます。お気をつけてご来店ください〟と。きっと運命の人に出会える占いや、カウンセリングがあるのだろうと思っていた。 その辺を質問したいが、店主はカウンターの向こうで私に背を向け、コーヒーを作り始めていた。最近目にしていないサイフォン式の作り方で、作業に集中する店主もろともまじまじと見てしまった。ヘラをゆっくりと動かし混ぜれば、芳醇な香りが店内に漂う。その香りに、とてもドキドキした。この店に来た目的など最早どうでもいい。 出来上がれば、紅い絵柄のカップとソーサーを棚から取り、コーヒーを注ぐ。 コーヒースプーンもミルクや砂糖ものせられず、ブラックのコーヒーがカチャリと小さく鳴いて私の目の前に出された。 「いただきます。」 紅い絵柄を堪能した後、カップに口を付けようとした、その時...。 「ガチャ!バタン!!」 と、入り口のドアが、激しく開いて閉まる音がした。
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