14人が本棚に入れています
本棚に追加
向かって左から3番目の席、私はこの椅子の真ん中より気持ち左寄りに座り、再び店主がコーヒーを淹れるシーンをうっとりと眺めていた。
向かって左から4番目の席には、黒木さんが座っている。私の右側に。
「今度、このハンカチは洗って返します。」
「いいです、洗わなくてもそのままで。」
「いえ、顔も拭いてしまいましたし。」
このお店の予約が、滅多に取れないというのに運良く取れたことを思い出す。次はもう、取れないかもしれない。
折角逢えた運命の相手とこれで終わりというには早すぎる。
浅はかにもハンカチに、ご縁を繋ぐことを託した。
そしてこのハンカチのおかげで、互いに自己紹介もできたところだ。
店主から借りたブランケットを羽織り、初めは少し震えていた黒木さんも、今は少し暖まったのか顔色も良くなっている。
血色が良くなった唇に、無意識に視線が向いてしまう私は、こんな女だっただろうか。恥じらいは一層私を女にしてゆく。
気を抜けば、本能を剥き出しにしそうな自分が怖い。
まだ男を知らぬこの身なのに。
最初のコメントを投稿しよう!