第2章 運命

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向かって左から3番目の席、私はこの椅子の真ん中より気持ち左寄りに座り、再び店主がコーヒーを淹れるシーンをうっとりと眺めていた。 向かって左から4番目の席には、黒木さんが座っている。私の右側に。 「今度、このハンカチは洗って返します。」 「いいです、洗わなくてもそのままで。」 「いえ、顔も拭いてしまいましたし。」 このお店の予約が、滅多に取れないというのに運良く取れたことを思い出す。次はもう、取れないかもしれない。 折角逢えた運命の相手とこれで終わりというには早すぎる。 浅はかにもハンカチに、ご縁を繋ぐことを託した。 そしてこのハンカチのおかげで、互いに自己紹介もできたところだ。 店主から借りたブランケットを羽織り、初めは少し震えていた黒木さんも、今は少し暖まったのか顔色も良くなっている。 血色が良くなった唇に、無意識に視線が向いてしまう私は、こんな女だっただろうか。恥じらいは一層私を女にしてゆく。 気を抜けば、本能を剥き出しにしそうな自分が怖い。 まだ男を知らぬこの身なのに。
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