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「思い出せませんか? 困りましたね。
それでは暫くの間、この事務所で寝泊まりしませんか?」
「え!!
ありがたい話しですが、構わないのですか?」
「はい!
ここに来るお客様の多くが、あなたのように記憶を無くされて来店されます。
ですが、この事務所で寝泊まりして他のお客様の事を見ているうちに、記憶が戻ってくる事が多いのです」
「そうなのですか?
それではお言葉に甘えて、暫くお世話になります」
「ではこちらにどうぞ」
彼女は立ち上がり、事務所の脇にある6畳程の部屋に案内してくれた。
私はこの部屋に寝泊まりして、同じように彼女達の世話になっている幼女と共に、彼女達の仕事を毎日観察する。
また、学校やお得意先に出かける事が多い彼女達に代わり、幼女の面倒を引き受けていた。
この事務所で寝泊まりするようになってから20日程経ったある日、年長の女性が30前後の女性を伴って、事務所に帰ってくる。
その女性の顔を見て、私と遊んでいた幼女が歓喜の声を上げ、女性に駆け寄って行く。
「ママ――――!」
だが、どうしたことか、幼女が女性の足にすがりつき呼びかけているにも拘わらず、女性は怪訝な顔で事務所の中を見渡していた。
その女性の背中に年長の女性が手を当て、お経のような呪文を唱える。
その途端女性が叫んだ。
「美奈ぁ――――!」
女性はその場に座り込み、すがりついてくる娘を力一杯抱きしめ、その背中を優しく撫でる。
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