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「ママ! ママ! ママ!」
「美奈! 美奈! 美奈!」
「あたしね、ママが迎えに来てくれるのを、あそこでずぅ――と待っていたんだよ」
「ごめんね、ごめんね、迎えに行かなくてごめんね」
「ママに会えて良かったぁ――。
でも…………あたし…………死んじゃったんだよね、トラックにひかれて…………。
だから…………もう…………行かなくちゃ。
あのね、お爺ちゃんとね、お婆ちゃんがね、そこまで迎えに来てくれているの。
バイバイ、ママ、大好きだよ…………」
母親にお別れの言葉を言う幼女の身体は、だんだん透けて行き消えて行く。
「美奈ぁ――――!」
幼女の身体が消えて行くのを見ながら、私は思い出した。
私が記憶を取り戻した事に気が付いた、女子高生が話しかけて来る。
「思い出しましたか?」
「はい。
朝、混雑するホームで電車を待っている時に後ろから押され、ホームの下に転落して電車にひかれた事…………、それに…………父や母、兄弟の事、働いていた会社、住んでいた住所、電話番号、全て思い出しました」
「ご家族をお呼びしますか?」
「否。
私が死んでから、どれ程の月日が経っているか分かりません。
父や母、兄弟達には私から会いに行きます。
それから美奈ちゃんのように、私も旅立つとしましょう。
長いあいだお世話になりました。
ありがとうございます。
失礼致します」
私は2人の姉妹に何度も頭を下げ、この事務所を後にした。
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