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「…………ご主人さま?」
ピクリとも動かない、白い手袋をはめた手。呼吸音のない口元、さらりとほどける束ねた髪。
長い時を一緒に過ごしてきた。
死んでも一緒に居たかったのはボクも同じ。初めて寂しくないって気持ちを教えてくれた大事な人……。
「ご主人さま……!」
ボクはそろそろと、慣れ親しんだドクロのマスクに手をかけた。
そしてそっとマスクを外し、その下から現れたご主人さまの顔は……。
「…………っ!」
やっぱりドクロ。でもその鼻骨の穴から、ボクの大嫌いな蜘蛛のオモチャがはみ出ている。
「んきゃーーーーっ!!」
「はっはっは。引っかかったな、愚か者め」
カタカタと歯を鳴らしてご主人さまが笑う。
「ひっ、ひどいでちーー! ボクが蜘蛛きらいなの知ってるくせにーー!」
「当たり前だ、知っているから忍ばせておいたのだからな」
ご主人さまは一昨年の夏、天命尽きて亡くなった。
でも当たり前のごとく、ボクと同じように骨だけになっても意思とワガママを残してこの屋敷で暮らしている。
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