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【早く骨だけになるように裏庭にすぐ埋める事。30日経ったら掘り返す事。……】と遺言状まで遺していき、30日後の夕方にボクが掘りおこしたら、開口一番『遅い!』と叱られた。
……どうやら埋められていた間、寂しかったらしい。
「さあシルキー、お茶にしよう。おお、クッキーからオレンジの良い香りが」
ドクロのマスクをそそくさと被りなおして、ご主人さまがテーブル上の紅茶に手を伸ばす。
ボクもトレイの傍に降り立って、焼きたてのクッキーを一個つまみあげた。
「……ねえ、ご主人さま。もうすっかりガイコツになってるのに、どうして今でも同じドクロマスクを被ってるんでちか? 意味不明なんでちけど」
「ん? ……コレはな、ごめんなさいの気持ちなのだ。お前を先に死なせてしまった事への」
「え……」
口に運ぼうとしたクッキーが、ポロッとテーブルに落ちる。
「……70年目にして初めてゴメンナサイ言ったーーーー!」
「はっ……!」
「なぁんだ、やっぱりヤッチャッタ感はあったんだ! あっははは!」
「……面と向かっては言ってない。今のは話の流れに出てきた単なる単語だ」
「なんでちか、ソレ! じゃあちゃんと面と向かって言ってくだたい」
「断る。だいたいお前は男らしくないぞ。そんな小さな事をいつまでも……」
「小さくないでち! あ、ちょっとどこ行くんでちか、クッキー持って行かないでくだたいー……」
森と泉に囲まれて、静かに眠る幽霊屋敷。
人には聞こえぬゴーストたちの声が、今日も元気に響き渡る――。
【おしまい】
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