うぃるふる!

5/17
前へ
/17ページ
次へ
 ーーボクが初めてこの屋敷にやって来たのは、ずいぶん前の事だ。  お母さんがここへ連れて来て、二言三言なにかご主人さまとやり取りした後、置いていった。それくらいしか覚えていない。 「……ここって幽霊屋敷って呼ばれてるんでしょ?」  薄暗いリビングでご主人さまと二人きり。初めてボクが話したのはそんな言葉だったと思う。 「そうらしいな。お陰で安く購入できた」  当たり前だけど、その頃のご主人さまはまだドクロ顔じゃなかった。  真っ白なシャツに、折り目のくっきり入ったズボン。ここまでキチンとした種類の人間は、それまでのボクの周りには居ない。 「こんな森の中でひとりぼっちで。寂しくない?」 「街に居た頃よりも寂しくなくなったさ」  きっとこの人は普通の男の人よりもカッコいいと思う。  ヘーゼル色の瞳に通った鼻筋、品の良い薄い唇。オシャレなタイを結び、長めの髪を無雑作に後ろで束ねている様はまさに英国紳士だ。 「……あなたがボクのお父さんなの?」 「違うだろうな。そうだと言ってここに子供と一緒に現れ、金をせびって帰る女はたくさんいる。だが、同じことを言い、貰うものだけもらって子供を置いて行った女は初めてだ」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加