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ーーボクが初めてこの屋敷にやって来たのは、ずいぶん前の事だ。
お母さんがここへ連れて来て、二言三言なにかご主人さまとやり取りした後、置いていった。それくらいしか覚えていない。
「……ここって幽霊屋敷って呼ばれてるんでしょ?」
薄暗いリビングでご主人さまと二人きり。初めてボクが話したのはそんな言葉だったと思う。
「そうらしいな。お陰で安く購入できた」
当たり前だけど、その頃のご主人さまはまだドクロ顔じゃなかった。
真っ白なシャツに、折り目のくっきり入ったズボン。ここまでキチンとした種類の人間は、それまでのボクの周りには居ない。
「こんな森の中でひとりぼっちで。寂しくない?」
「街に居た頃よりも寂しくなくなったさ」
きっとこの人は普通の男の人よりもカッコいいと思う。
ヘーゼル色の瞳に通った鼻筋、品の良い薄い唇。オシャレなタイを結び、長めの髪を無雑作に後ろで束ねている様はまさに英国紳士だ。
「……あなたがボクのお父さんなの?」
「違うだろうな。そうだと言ってここに子供と一緒に現れ、金をせびって帰る女はたくさんいる。だが、同じことを言い、貰うものだけもらって子供を置いて行った女は初めてだ」
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