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やっぱりな、とは思った。この人があのお母さんと、気まぐれでも関わることなんかあり得ないような気がする。
「そこのクローゼットの引き出しに金がある。持てるだけ持って出ていきなさい。あの女とは別に生きた方がいいぞ」
「……うん、そうする。でもお金はいらない」
ボクがそう言うと、彼はおっとりと首をかしげて綺麗な眉をひそめた。
「いいから持っていきなさい。街で金は必要だろう」
「街は寂しいから。ボク、ここに住む」
ご主人さまの驚いた顔なんて、今思うとその時見たのが最初で最後じゃないかな。
「……はなはだ迷惑なのだが」
「迷惑にならないようにする」
ボクのお願いをフンと鼻息で蹴散らして、ご主人さまはテーブルから手紙のようなものをつまみ上げ、ペーパーナイフで封を切る。
どうやら無視を決め込むつもりのようだ。
「ねえ、いいでしょ? ボク、シルキーっていうんだ。もう街には帰りたくない……」
すると突然、手紙を読んでいた彼が『はうっ!』という呻きのような悲鳴のようなおかしな声を上げ……便箋が手からハラッと落ちた。
呆然としたまま動かなくなってしまったので、仕方なく手紙を拾ってあげると。
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