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走はこの小さな子供みたいな少年に、脆(もろ)さを感じて、少し胸が締め付けられた。
「じゃ、さ。
こういうのは、どう?
オレが君の面倒を見る代わりに、
いつか、オレが君のこと、論文に書いてもいい?」
「・・・論文?」
「うん。
オレはいつか学者になって、君が、本当に、この世界にこうやって生きていたんだって、書き残したいんだ。
発表はいつだっていい。
オレが死んでからだって構わない。
君がいつか安全で安心に暮らしていけるようになってから。
そんなことあったんだって、思い出話になってから。
君が年老いて家族にそんなこと話せるようになってから。
・・・それならどう?」
ぴょんタは顔を上げて走をじっと見詰めた。
「・・・いいよ。」
走は、透き通った眼鏡のレンズの奥からぴょんタを見詰め返す。
「そんな風に君を観てもいい?」
「・・・いいよ。観て。
僕のこと観てて。」
堪らないように、そう言って、ぴょんタは走に抱き付いた。
ぎゅっと絡みついているのに、尚、走の存在を確かめようとする腕。
そんな所在の無いぴょんタが危うくて、走はその背中に黙って腕をまわした。
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