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「そんなに高くないよ」
「何いってる。おれは値段を知りたいんだ。高いか高くないかなんて、何の意味もないじゃないか」
フランス人は、ひとりで勝手に怒っていた。
彼にそんなことをいっても、しかたない。値段は、その場で店主が決める。高級な寿司屋の時価と同じシステムだ。
ぼくはそんな彼らを横目で見ながら、伊勢エビを捜していた。
地中海は甘エビもおいしいが、伊勢エビはさらにうまい。伊勢湾の伊勢エビより上物だ。
「あった、これだ!」
ようやくお目当てを見つけた。飛び切り大きい。一抱えもある。量ったら、何と6キログラム。もちろん生きている。
暴れると怖いので、荷造り用のヒモでしばってもらった。
その3「眠れぬ一夜」
伊勢エビは、車のトランクに入れて帰ってきた。しかし冷蔵庫には入らない。
「どうせ生きているし、腐ることもないだろう」
結局台所の流しに置くことにした。すると夜中に奇妙な音がする。
「ギー、ギー、ギー、ギー、ギー」
伊勢エビの鳴き声だ。うるさすぎる。
「こんな所イヤだ。地中海が恋しいよ?!」
とでも鳴いているのだろうか。
明日までの命とわかっているだけに、こちらもつらい。おかげで、その夜はあまり眠れなかった。
こういう気の弱いところは、まだまだお坊ちゃんだ。
その4「調理か格闘か?」
翌日、伊勢エビをゆでようとしたが、またも問題発覚。
自宅の大鍋に入りきらない。
「さて、どうしたものか?」
思案の末、お隣りからタライのような鍋を借りた。
いよいよ調理開始。
まずお湯をわかす。沸騰したところで、エビを放り込む。
「あとはゆで上がるのを、待つだけ。楽なもんだ」
ところが、そう簡単にはいかない。大きな鍋のフタが持ち上がる、中から、巨大なハサミが飛び出してきた。
「バタバタバタバタ!」
おのれの運命を知ってか、エビが最後の抵抗をしている。
あまりに騒ぐので、ぼくの手には負えない。
「どうしよ?? 助けて!」
誰もいないのに、叫んでしまった。緊急事態になるとあたふたするところも、まだまだお坊ちゃんだ。ちょうどその時
「ピンポーン!」
とチャイムが鳴った。
招待した友人の同僚が、家に到着したんだ。
「ナガオ、おれにまかせろ!」
彼は有無をいわさず、エビを湯に放り込む。鍋のフタを上からグッと押さえる。
「バタバタバタバタ!」
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