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「まだダメか、それならこうだ!」
彼は全体重をかけて、鍋ごと押さえつける。しかし相手は6キロの伊勢エビだ。まだまだ激しい抵抗が続く。
「ガタガタガタガタ!」
今度は、鍋ごと揺れだした。
「ナガオも手を貸してくれ!」
「わかった、エビごときに負けてたまるか!」
ふたりがかりで押さえつけた。人類の尊厳と、全体重をかけて。
やがて鍋は、静かになっていった。
ふたりは、静かにエビの冥福を祈った。
その5「エビ料理」
伊勢エビは、死んでもわれわれに抵抗する。
大の大人が5人がかりで食べても、余らせてしまった。頭、脚、それにミソの部分だけで満腹。
「ナガオ、腹が苦しい。もう入らない」
「まだまだ残っているぞ。誰か食べないのか?」
「これ以上いらないよ?。勘弁してくれ」
「もって帰ってもいいぞ。包んでやろうか?」
「ナガオ、そんなのいい。エビなんか、もう見たくもない」
宴がお開きとなっても、しっぽの部分がまるまる残った。さすが6キロ。
日本人4人はみんなお腹をさすりながら、帰っていった。歩くことすら、つらそうに。
家には、ぼくとエビのしっぽだけが残った。自分ひとりで食べきるには、何日かかるかわからない。かといって捨てるには、もったいない。
「どうしよう?」
幸いにも生きてる時とは違い、切り刻めば冷蔵庫で保存することができた。
翌週、今度はフランス人講師たちを自宅に招待した。
輪切りにしてマヨネーズと共に皿に盛る。5人分の前菜となった。
「この伊勢エビ、おいしいね」
「ムッシュ・ナガオ、どうもありがとう」
ほんとは残飯、いや残エビ処理のため呼んだんだけどね。
それにしても、エビ1匹に対して10人の大人が相手にしなければ食べ切れないなんて。
伊勢エビ様、あなたには参りました。
その6「夜をいっしょに過ごしたい」
彼らとの仲は、その後も長く続いた。
会社からアルジェリアに派遣された日本人からすれば、ぼくが不思議でならないらしい。あるとき、こんな話題になった。
「ナガオ、君はフランス人たちと契約で仕事をしているんだろ。ぼくらには理解できないよ」
「そうかなあ」
「会社にいれば安定して過ごせるのに。契約ならいつ切られるか、わからないじゃないか」
「会社だって、肩たたきやリストラがあるよ」
「フランス人相手じゃ、苦労もあるだろ?」
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