おじや専門店『じゅるじゅる』

３．想ひ出

　当時はちょうど、バブルがくる少し前だった。

　日本全体が好景気で、銀行も気前よく融資してくれたんで、開業は上手くいった。

　俺は素人ながらも花の勉強をしながら、生花店を経営した。

　それから二年ほどして。母さんは、映画プロデューサーと結婚した。

　準主役で、映画にちょくちょく出るようになったが。裸になるような役が多かった。

　もちろん、俺は花束を送り続けたが。

　さすがにもう人妻なんで、名前は添えないようにした。

　一ファンとして、ただ花束だけを送り続けた。

　そんなある日、そのプロデューサーが映画の製作費を横領した罪で、逮捕された。それをきっかけに、出演者に対する暴行、女優に対する強姦、覚醒剤の使用なんかが、次々と暴露されて明らかになった。結局、そのプロデューサーは自殺した。

　それから母さんの名は、聞かれなくなった。

　所属事務所はクビになって、行方知れずになった。

　同窓会に出て、元クラスメートたちに尋ねても、みんな知らないと答えた。