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その一年後、だったかな。
いつものように店を開けて、開店準備をしていたら。
ふいに「涛吉君」と名前を呼ばれた。
母さん、京香が、そこに立ってたんだ。
「いつも花束、ありがとう。なんのお礼も言わないで、ごめんなさい」
「…………いいんだ。俺が勝手に、好きでやってたことだから」
「怖かったの」
「え?」
「涛吉君が、本気だって分かってたから。返事をしたら、お付き合いが始まると思って」
「……そっか」
「応援してくれて、感謝してる。でも芸能界は、もう引退したの」
「えっ!」
「美人なんて、全国に何人でもいるのよ。演技の上手い女も、たくさんいるわ。それだけじゃダメなの。スターになる人って、みんなちょっと頭がおかしいのよ。異常なくらい非常識だったり、傍若無人だったり。その狂気が人を引きつけるの」
「………………」
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