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埼玉県の南部。東京に近い、とある住宅街。
駅から少し離れた、幹線道路に面した場所に。
寂れた商店街があった。
駅を挟んで反対側に、全国チェーンのスーパーがある。
ほとんどの住人は、そちらで買い物を済ませてしまう。
こちらに来る客は、スーパーには無い物を求めるニッチな消費者か、近場で買い物を済ませようとする横着者か。あるいは全国一律の売り場と、型通りに統一されたサービスなどに反感を覚える、拘わりの偏屈な客か。とにかく、そんな感じだ。
涛吉圭助と、父親の雅文が経営する花屋も、そこにあった。
商店街のちょうど入り口。一等地にある。
幹線道路沿いなので、横には駐車場がある。三階建ての駐車場だ。商店街の持ち物で、月極め契約のスペースと、買い物客が停めるフリースペースとがある。
その脇の所に空きスペースがあり、買い物客が休憩できるよう、テーブルとベンチが設置してあった。元は、商店街が朝市や年末セールなどの、催事用のために作ったスペースだったが。大手スーパーに客を取られて上手く活用できず、ここ十年は誰も使わないデッドスペースになっていた。それを雅文が買って、休憩用のベンチにしたのだ。
そのスペースを貸してほしいと。
涛吉生花店に、突然やって来たのが、弐輪千尋であった。
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