プロローグ

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少女が喫茶店に入ったとき、コーヒーカップを洗っていたウェイトレスは思わず手を止めて少女を見た。 この喫茶店は街の住民がほとんどだったので、初めてのお客様である少女を見てウェイトレスは少し戸惑った。 戸惑った理由はそれだけではなかったけれど。 ウェイトレスは戸惑いつつも、「お好きな席へどうぞ」と少女を促した。 ウェイトレスはじーっと女を見つめた。そうしたのは、女が初めての客様だったからとか、注文を受けなければという使命感とかではなく、ただただ目を引くほどの美しさだったからだ。 少女は白いシャツネイビーの膝丈ぐらいのスカートを着こなしていて文字通りの清楚だった。 今年22歳になるアルバイト学生のウェイトレスは、この人は私よりも若そうだなとメニュー表のページをめくる少女の横顔を観察しながら思った。というのも、化粧気が感じられないからだ。それでも美しさで勝ち目は無いとすぐに悟った。 少女はウェイトレスを呼び、メニュー表のチーズケーキとオレンジジュースを指差して、これとこれお願いします、と上品に言った。 ウェイトレスは女の大きな黒く澄んだ瞳に惹かれ、吸い込まれるかと思った。 チーズケーキとオレンジジュースを机に置いたウェイトレスは少女を飽きることなくまじまじと見つめていた。 見れば見るほど綺麗だ。 少女は誰と待ち合わせていたということもなく、チーズケーキとオレンジジュースを食べるとお勘定をして、ありがとう といい、アッシュグリーンの日傘をさし、桜が降る街へと消えていった。 女が店から出て行くと、店の中に居る店員や客の全員が少女の接客をしていたウェイトレスにどっと駆け寄り、さっきの誰?、すごく美人だった、初めて見る顔だな、などと四方八方から少女の感想が飛んでくる。 だが、ウェイトレスも少女を見たのは初めてで、何も答えられるはずもなく。それからというもの喫茶店では少女の話題でもちきりだった。 そしてその噂はこの小さな町にすぐに流れ、広まっていった。 綺麗な少女が居ると。
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