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その日はとにかく騒々しい朝だった。 理由は分かっている。 すごく綺麗な転校生がここ花野ヶ丘高校にやってくるからだ。 どこから転校生の情報が漏れるんだ と、ここに通勤する桐谷一葉【きりたに ひとは】額に皺を寄せ、朝の職員会議に間に合わせるため、この騒々しい廊下を掻き分けながら早歩きをして職員室へ向かった。 職員室に着くと例の少女が学年主任の隣に座っていた。 少し遠目からでも分かる。噂通り綺麗だ。 制服から見える透き通るような白い肌を引き立たせる様に黒く長い髪が腰位まで伸びている。 学年主任は俺が職員室に入ったのに気づくと手招きをして俺を呼んだ。 「転校生の葎迫露【むくらさこ つゆ】さん。桐谷くんのクラスに入れるから、今日からよろしくね」 そう告げられた俺は突然のことで口がぽかんと開いて、何秒かの間があって「はい?」と訊き返してしまった。 学年主任はだーかーらーと面倒くさそうにさっきと同じ言葉を繰り返した。 いつもなら適当に受け入れる俺だが今回ばかりはそうはいかない。 なぜなら担任を受け持ったのは今年が初めてだからだ。 咄嗟に学年主任を引き止めて懇願するように言った。 「あの、事前に聞いてないし、準備もできてないんですけど、、、」 「わしだって2、3日前に知って今さっき桐谷先生のクラスに入れることに決まったんだ。頼んだよ、まぁ可愛い子じゃないか」 学年主任は小さい声でそう言うと俺の肩をぽんぽんと叩いて、もういいよ と言わんばかりに机に向かい始めた。 最後の「可愛い子じゃないか」って、見合いかよ と心の中で毒を吐いて、転校生の露を連れて自分の席に向かった。 席に座り改めて露と向き合うと、大きな瞳と長いまつ毛に反射的に目を逸した。 机に向かって準備をしながら俺は露と改めて挨拶をした。 「よろしく、こんな状態だけど…担任の桐谷一葉です」 「よろしくお願いします、葎迫露です。」 挨拶の時もせかせかと準備をして失礼な俺に露は嫌な顔ひとつせず、綺麗に微笑んだ。 そういえばさっきも、、、 普通、小声でヒソヒソと話されていたら、面白くないし、気も悪くなるはずなのに露は顔色変えず終始微笑んでいた。 俺は露を綺麗で優しくて清楚だなと思いつつ、どこかミステリアスで恐怖心を抱いた。 これが露との出会いで、それは桜が散った後の4月の終わりだった。
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