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最寄りの駅に到着した二人は改札の前へと向かう。
電光掲示板を確認した加那が踵を返し、再び拓郎の傍に駆け寄ってくる。そしておもむろに駅構内にある珈琲屋を指さした。
「20時出発ので帰るから、少しだけ寄っていかない?」
加那は両手を顔の前で合わせ、眉尻を下へと下げ懇願するような仕草を見せた。
その表情からは、もっと自分と居たいからーーなんて都合の良い解釈は到底できなかった。恐らく今日の一件がまだ不安なのだろう。
「俺は別に構わないけどお前ん家厳しいんじゃ、、、」
「いいからいいから!!」
少し躊躇う拓郎の手を加那が引っ張り珈琲屋へと向かう。
握られた手の感触をこの時初めて感じ、拓郎は思わず手を振りほどく。
「なんで手握ってんだよ、、、」
赤面した顔で言う拓郎だが、先に握ったのはそっちだと言われ加那から顔を背ける。
「あの時は仕方ないだろ!緊急事態だったんだから!」
いつもならすぐに言い返してきても可笑しくない筈だが、加那からの返事は暫く経っても帰ってこない。その微妙な間に根負けした拓郎が加那へと視線を戻すと、下を見つめ項垂れる加那の姿があった。
「やっぱ緊急事態だったんだよね、、、アレ」
そう呟く加那。
気丈に振舞っていたが、下山中に起こったあの出来事が気になっていたのだろう。
大丈夫と言っておきながら、緊急事態なんて矛盾した事を言ってしまった事で余計に不安を煽ってしまったのかもしれない。
「ごめん、、、行こうか」
今にも泣きだしそうな加那を宥めながら二人は珈琲屋へと向かった。
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