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「ちょっと、お兄さん!少しだけええかな?」
駅から数十メートル離れた場所で、拓郎は聞き覚えの無い声に呼び止められる。
振り向くと見たことのない男が一人、手を振りながらゆっくりと近づいてきていた。
「いやー。すんませんなぁ停まってもろうて」
拓郎の正面に来た男は拓郎の左手を勝手にとり、上下にブンブンと振り回す。
紺色のカジュアルスーツに身を包み、右手には高そうな銀の腕時計をはめている。
「勧誘なら他を当たって下さい」
拓郎は怪訝な顔をして手を払いのける。
24区では特に珍しい事ではない、夜の駅前で絡まれる事なんて日常茶飯事だ。
「いいや」
男は首を横に振る。
「じゃあ何の用事ですか?」
少し後ろへと下がり間合いをとる拓郎。
男はその様子を見て慌てたように両手を前に挙げ拓郎を宥めた。
「そう構えんといて下さいよ。少し話がしたいだけです」
独特の口調、おそらく訛り方から京都弁だろうか。
本当に慌てる男の様子を見て拓郎の警戒心が薄れる。
「、、、なんの話ですか?」
相手の様子を窺いながら問いかける拓郎。下らない話なら一蹴して引き上げるつもりだったが、男の口からは意外な言葉が放たれた。
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