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「いやな、さっきあそこの珈琲屋で珈琲飲んでたら、たまたま聞こえましてね」
男は一瞬黙り込む。そして透き通るような眼で拓郎の目を見つめながら言った。
「お兄さん、【竹の花を見た】って言ってなかったです?いや、正確には彼女さんがですけどね」
【竹の花】というワードに拓郎の眉が一瞬ピクリと動く。
「やっぱ聞き間違いじゃなかったみたいですねぇ。どこで見たんか教えて貰えませんか?」
拓郎に話す隙を与えず捲くし立てる男。なにが目的なのかは知らないが、男の目は最初のお道化た表情とはうってかわり、真剣なものへと変化していた。
完全に男のペースに飲み込まれ始める拓郎。
「あまり自分の事をベラベラ話すのは嫌いなんだ。まず質問するなら名前くらい名乗ったらどうなんだ?それにまだ彼女じゃない」
喰ってかかる拓郎に反し、男はクスリと笑い声を漏らす。
「いや、失礼。僕の名前は滝上 蓮治(れんじ)、歳はこう見えて20歳。4区の大学に通ってる普通の大学生や」
4区の大学と言えば名門中の名門。国内でその大学を知らない者は誰もいないのではないだろうか。
しかし目の前の男の風貌は、そんな難関大学に通っているようには、とてもじゃないが見えない。身形は小綺麗で、顔はハーフのように堀が深いながらも綺麗な造りをしている。茶色の頭髪は毛先を遊ばせ、耳にはシルバーのピアスが幾つかぶら下がっている。
「凄いですね」
感情の入っていない台詞を吐きかける。
「あー!信じてないやろ!、、、まぁそないな事より【竹の花】の事、教えてもらえませんか?」
蓮治はお道化た口調で拓郎の毒を受け流し、話を本題へと戻す。
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