偶然の出会い

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蓮治は両手をすり合わせながら拓郎にせがむ。 「巌洸寺(たけみつでら)で見ましたよ。ただそれだけです」 夕方に見た事は敢えて口にしない拓郎。隠したいわけじゃないが、言う必要もないと思ったからだ。 こんな日の暮れた時間から寺に行くとも思えない。 「巌洸寺か、、、ありがとうなお兄さん」 蓮治はスマートフォンの音声機能を立ち上げた。独特な電子音がピロリと響く。 「巌洸寺へ案内たのんます!」 「タケミツデラ ヘノ ルート ヲ ヒョウジシマス」 無機質な音声と共に画面に地図が表示される。 蓮治はそれを確認すると足早に向かおうと歩を進め始めた。その様子を見て拓郎は慌てて呼び止める。 「ちょっと待って!まさか今から行くつもりか!?」 拓郎の慌てる様子を見て目を細める蓮治。その視線は酷く冷たい目をしているように見えた。 「何かあったんやな?」 蓮治の言葉に俯く拓郎。 二人があの場所を離れてから時間もかなり経過している。大量の鼠たちもきっと姿を消して、いつもの静寂を取り戻しているはず。 しかし、漠然とした自信しかない拓郎の脳裏に一瞬、蓮治があの惨事に巻き込まれる様子が過る。 その場で黙りこんでしまう拓郎。
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