竹に咲く緋い花

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「ねぇ!見て!竹に花が咲いてる!」 季節は夏、キツく日差しが照りつける竹林を二人の男女が歩いていた。数歩先を歩いていた少女が振り返り、気怠そうに歩く少年に向かって手を振る。 ショートカットの少女の髪は綺麗に栗色に染められ、毛先は内側へと巻かれている。背負っているリュックは少女の背中を覆い隠し、小柄な少女を殊更小さく見せる。夏の日差しを受け、少女の大きな瞳はキラキラと輝いていた。 少女が手を振る先に居た少年は小さく溜息を溢す。少年は黒髪の少し癖のついた前髪を掻き上げると、その手に持っていたタオルで額から滲み出る汗を拭きとる。掻き上げた髪の隙間から見える切れ長の目は、細いながらも大きく、鼻筋は通り、端正な顔立ちをしている。 「竹に花が咲くわけないだろ」 左手は土の壁が立ち塞がり、右手には崖が口を開く。その崖下から無数の竹が天に向かってその身を伸ばしている。転落防止の為か設置されたガードレールがあり、少女はしきりにその先を指さしながら少年に笑顔を見せる。 視界いっぱいに広がる鮮烈な竹の緑、折り重なる笹の葉は日光さえも遮り、昼間だというのに崖下は薄暗い。少女の指さす先、丁度二人の正面に位地する1本の竹の節の部分に、それはたった一輪だけ咲いていた。 【花】というよりは【実】。秋に収穫を控えた稲のように頭を擡げ、時折吹く風にゆらゆらとその実を震わせる。僅かに赤く染まった葉は、緑一色の視界になんとも言えない違和感を作り出していた。 「あれ花なのかよ、気持ちわりぃ。」 少年はそう吐き捨てると一人先へと歩を進め始めた。慌てて少女が後を追う。 「ちょっと、拓郎!なんでそんなに無関心かな」 少女は頬を膨らませる。拓郎と呼ばれた少年はそんな少女に一瞬視線を向けたが、すぐに進行方向へと視界を戻した。別に冷たくするつもりは毛頭ない、ただ純粋に興味を惹かれなかったのだ。あれが鮮やかな華なら話は別だが、猛暑照り付ける日差しの中、あまり長居はしたくない。 そそくさと進む拓郎の横で、少女はスマートフォンを取り出し操作する。そしてあるサイトを開いて拓郎へと渡してきた。
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