偶然の出会い

7/10

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
誰もいない暗闇を僅かなライトの明かりのみで前に進んでいく。不意に聞こえる風の音、ライトの前を黒い何かが横切ったように見える錯覚。時には自身が踏みつけた枝の折れる音でさえ心臓は鐘を打つ。山全体が拓郎を闇と共に飲み込もうとしているようだった。 心拍数は依然跳ね上がったままではあるが、中腹辺りまで何事もなく無事辿り着く事ができた。ふと足を止めた拓郎の耳に、聞きなれない音が風に乗り通過する。 それは赤ん坊が玩具を与えられ、嬉しそうに笑う声のような、または発情期に狂ったような鳴き声を出す猫のような。不規則で甲高い音がこの先の道から聞こえてくる。 「、、、アハハ、、ハハハハ!!」 ゆっくりと近づく拓郎の耳に届く不快な音、その音がなんなのか、段々と理解してきていた。それは確かに女の笑い声。こんな時間に山の中でこんな高笑いをする状況は理解出来ないが、定期的に挟む呼吸の為の静寂があり、そしてまた吐き出すように笑い声を山中に響かせる。 拓郎は咄嗟にライトを消し暗闇に身を屈め、ゆっくりと声のする方向へと近づいていく。声は次第に大きくなる。 暗闇に慣れてきた視界にそれはうっすらと姿を表した。 道の真ん中で笑いながら地団駄を踏む一人の女。 振り乱れたボサボサの金髪の髪に、露出の多い服は乱れ、下着が僅かに露出している。 しきりに何かを踏みつけるように、ガンガンと足を何度も地面に叩きつけている。 その様子を見て凍りつく拓郎。 山道の一本道、この先に進むにはこの女の横を通らなければならない。普通じゃない女の様子に何かされる危険性が頭を過る。 しかし、相手は女一人。ここまで来たのに引き返すわけにもいかない。 やがて意を決して携帯のライトを再び灯す。普通じゃないが、このまま此処で立ち往生している訳にもいかない。スマートフォンを握りしめゆっくりと立ち上る。 「何しとるんや!早よライト消せ!」 突然の怒号、そして拓郎の体が後ろへと強く引っ張られる。 体制を崩し、転げ落ちたスマートフォンが女のいる方向を照らし出す。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加