良心の阿責

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打ち上げられた魚のように痙攣を繰り返す女は、やがて小さく2度身体を震わせた後、静かに活動を停止させた。半開きのままの瞼から見える瞳は白目を向き、歪んだ笑顔を見せたまま横たわるその光景に、酸っぱいものが胸の内側からこみあげてくる。 状況を理解する事を拒否する心情とは逆に、脳は今の状況を拓郎に強制的に理解させる。馬乗りになった女、突然横に弾き飛ばされた後、脳髄をぶちまけ横たわる。女の反対方向には、血で染まる大きい尖った形状の岩を両手に持ち、肩で息をする蓮治の姿。 「お前、、、お前、なにしてんだよ、、、!!」 立ち上がるよりも先に蓮治へと怒号を飛ばす拓郎。しかし、蓮治は両手に抱えた岩を放り投げると、ガードレールから身を乗り出し胃の中の内臓物を吐き出し始めた。 ふと吹いた風が酸っぱいような、腐敗した生肉のような臭気を纏い鼻に纏わりつく。 今一度、女に視線を向けるが、やはりピクリとも動かない。女の頭部付近の地面は黒く染まり、固形とも液体とも言えないゼラチンの塊のようなものが、女の頭髪のいたる箇所に付着している。 日常とは懸け離れた光景に、その場から動く事が出来ない拓郎。 暫くそのまま状態が続くか、ふと我に返った拓郎が立ち上がり、吐瀉物を崖下へとぶちまける蓮治に駆け寄ったかと思うとその胸倉に掴みかかる。 吐瀉物を口元に付着させたまま、拓郎の腕の力なくぶら下がる蓮治。憔悴しきった蓮治に対し拓郎が捲くし立てる。 「アイツ、死んでるぞ、、、どうするつもりなんだよ!?おい!」 「‥‥‥」 拓郎の指差す先に視線を向ける蓮治だが、その目に力は無く、その表情からは今何を考えているのかさえ読み取れない。暫く拓郎一人の怒号だけが山中に木霊し続ける。
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