良心の阿責

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やがて蓮治が大きく一回深呼吸をする素振りを見せたかと思うと、拓郎の身体が後方へと突き放される。 「ほなら、あの状況で他にどうせいっちゅうんや。あのまま喰われたら良かったんか!?あぁ!?」 ーーそもそも君が来なかったら、こうはなってなかった。そう言うと突き放した拓郎へとグイグイと詰め寄っていく。今度は逆に拓郎の胸倉を掴み返した蓮治が拓郎に罵声を浴びせる。 「見捨てる事だって出来たんや、感謝くらいできひんのか!?」 蓮治の言葉にハッとする。 確かにあのまま逃げていれば蓮治は何事もなく逃げ切れただろう。なにより自身の手を殺人に染める事は無かった筈。冷静になってきた脳が、さっきまでの状況を冷静に判断し始める。 もしあの時、先を走っていた蓮治が引き返してきてくれなかったら、無残な姿で横たわっていたのは自分だったかもしれない。 「ごめん、、、助かったよ。感謝してる、、、」 「ほなら、ええんや」 そんな事より、と拓郎の胸倉から手を離し、横たわる女へと視線を向ける蓮治。 今は喧嘩なんかしている場合じゃない。この状況をどうにかしなければならないのは、拓郎も理解している。すでに硬直の始まった女の身体は青白く変化していた。 「警察に連絡、、、」 そう呟く拓郎。スマートフォンをとりだすが、その指は動きを止める。 殺人事件があったとなれば警察は動くだろう、そしてそのまま二人は現行犯逮捕。この先の将来を犯罪者の烙印を背負ったまま生きていかなければならない。そう考えるとどうしてもコールボタンを押す事が出来なかった。 そんな拓郎の様子をジッと見ていた蓮治。拓郎のスマートフォンの画面を暗転させ、首を横に振る。 「確かめたい事がある。まだハッキリせんけど、通報するのはそれを確認するまでまってくれへんか?」 確認したい事ーーそれが何なのかハッキリしないが、先延ばしになった事で拓郎の肩の力が少し抜ける。内心は安堵していたのかもしれない。このまま無かった事に出来ないだろうか、なんて黒い考えが脳裏にチラつく。
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