良心の阿責

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「24区に俺の親父が借りてるマンションがある。まずはそこにに行こう」 蓮治は動かなかった女に近寄ると、中腰になり両手を合わせ瞼を閉じる。それにつられるように拓郎も両手を合わせる。 ーー神なんて信じない。 普段からそう豪語していた拓郎だが、この時ばかりは神にでも縋りたい気持ちだった。合わせる手は、果して動かなくなった彼女の為なのか、はたまた自身の為なのかは拓郎自身解らなかった。 女の遺体を後に山を下る二人に会話はない。何かを知っているであろう蓮治に聞きたい事は山ほどあった。大量発生した鼠、狂乱した女、それに竹の花の事ーー。 しかし、重く冷たい空気の流れる空気の中切り出せずにいた。 無言で歩く蓮治もまた、拓郎が何故この場所に来たのか、竹の花を見つけた時の詳しい状況等、気になる事は沢山あった。 怪訝な表情のまま山を降りた二人は、眩しい外灯に照らされた街並みに目を細める。 時刻は丑三つ時。昼間は群衆が世話しなく行き交う道路沿いも、今は静けさが漂っていた。 外灯に照らされた二人はお互いの姿を見て驚愕する。 蓮治の紺色のジャケットの袖には細かい血飛沫が模様を造り、拓郎に至ってはジーパンからシャツにかけてベットリと血の道筋が出来ていた。 蓮治はジャケットを脱ぎ、道路脇の植木の隙間にそれを捻じ込んだ。呆然と立ち尽くす拓郎へと目くばせをし、同じ様に上着を脱ぎ棄てるよう促す。人気が無いのは今の二人にとって好都合だったのかもしれない。こんな姿を誰かに見られたら通報されるに間違いない。 拓郎が上着を脱ぎ棄てると、二人は人目を避けるように裏道を選びながら進んでいく。人気のある場所を通らなければいけない時は、タイミングを見て走り抜け。人の気配がした時は物陰に身を潜めた。まるで犯罪者ーーいや、実際に犯罪を犯してしまったのだから当然だろうか。 不快な緊張感に包まれながら、二人は一棟のマンションまでやってきた。
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